懐かしい人を思い出した

それはもう突然。
どんな顔をしていたっけ。美人だったのは覚えている。あの子の声はどんなだっけ。あの子の服はどんなだっけ。とても大切な言葉を教えてもらったはずなのに思い出せない。
そういえばあの子に会ったのはたったの二回程だ。
教えてもらった名前も本当の名前じゃなかったらしい。
私が教えた名前も本当の名前じゃなかったらしい。
あの子のしぐさはどんなんだっけ。何が辛くてあそこにいたんだっけ。何から逃げてああしていたんだっけ。どうしてあそこから姿を消したんだっけ。
何も覚えていないのにあの子はきっと日本のどこかで別の名前で生きていて私もこうしてディスプレイの前に座っていて、でももうあの子の事は何一つ思い出せなくて、それでも確実に存在をして時間を共有していた事だけは覚えていて、記憶ってなんて厄介なんだろう、とか、もう。
二度と逢えないことを悲しいとか思わないけど、もう少しあの頃に時間を共有していたかったな、なんて思ったりはする。そうすればもっと鮮明にあの子を思い出せただろう。もっとあの子の事を心から憎めただろう。もっとあの子の事を裏切り者と罵れただろう。全部が今更なんだけど。何も覚えちゃいないし。過去なんて過ぎてしまえば夢か幻の一部。