ネパールと映画

ネパール帰りの友人と焼肉を食べる。
新年を、下痢に苦しみながらのトイレで迎えたという彼に、仏陀の絵が入ったお茶葉を貰った。
『らりぱっぱな西洋人がたくさんいたよ。僕は大麻にしか興味が無いからケミカルはやらなかったけどね。夜になると電気が止まるし、そこらじゅうで事故が起こっていて血まみれになりながら喧嘩してる人とかがいたし、自分の乗ったバスもパンクしてちょっと大変だった。小学校は屋根が無い青空学級。食べる物はカレーとチャイばかりで、ホテルにはお風呂が無いけど300円で泊まれるんだ。年末年始だから飛行機代だけで20万かかったけど、現地に着いてからは一日1000円使うのも大変なくらいだったよ。』
そんな話を、彼の撮った写真を見ながらうんうんと聞く。

『旅行しながら、とある映画の話を思いついたんだ。』彼は話し始める。

主人公はネパール人の若い女性。
日本へ出稼ぎに行くために、町の人々の協力を経て日本人と偽装結婚をしビザを取得、日本へと渡る。もちろん「偽装結婚」なので、結婚相手の日本人には逢った事がない。しかし何かあったときに怪しまれない様、結婚相手の顔写真と名前、簡単な略歴、趣味などについてのデータを受け取っている。(実際行われている偽装結婚でも、このようにデータのみのやりとりが行われるんだって。知らなかった。)
たった一人、知らない国で働き出す主人公。勤め先は安っぽいスナック。慣れない仕事、解らない言葉、客からの無理矢理なセクハラ。ほぼ身売り状態で日本に来た彼女に帰る場所など無い。故郷の人たちに仕送りをするためにも、仕事を辞めることも出来ない。疲労と孤独の毎日。心が折れそうになった時に、彼女をゆいいつ支えたのは、逢ったことも話したことも無い、写真の中でやさしそうに微笑む結婚相手の彼だった。
主人公は、自然と、写真の中の「夫」に興味を持つ。一体どんなひとなんだろう。今どこでなにをしているんだろう。許されるのならば、逢って一言お礼を言いたい。私を支えてくれたのは、紛れも無い写真の中のあなたでした、と。
主人公は写真の夫を探し始める。その人探しの最中、彼女は様々なひとたちと出会う。同じスナックで働く女の子。ドヤ街のおっちゃん。近所の小学生の女の子。ホームレスの老人…。全ての人たちに小さくとも暖かな心のふれあいがあった。(映画のなかではオムニバス風に語られる彼らと主人公。)写真の中の夫にだけ救いを求めていた彼女が、人々との交流のなかで、少しずつ成長してゆく。『ここも、そんなに悪くないのかもしれない』と。
結局、写真の夫は見つけられなかった。しかし主人公は、写真に救いを求めなくても生きて行ける強さを手に入れた。きっかけをくれたのは写真の夫だ。彼に感謝をしながら、前を向いて生きてゆく主人公。
そして主人公は夜の仕事をやめ、新しい職場をみつける。小さい近所のスーパーマーケットだ。そこの店長が、まさに『写真の中の夫』であることを、彼女はまだ知らない…*1

話を聞きながら大爆笑する私。突っ込みどころが多すぎるが、とても幸せでハッピーなB級映画になるだろう!是非観たい!!と思う。ちなみにこの映画には芸術的な視点はまったく求めず、ひたすらに皆が幸せになれるような、そんな話にしたいそうだ。岩井俊二よりクドカンっぽいのがいい。と彼は言った。私はぼんやりと「運命じゃない人」の終わりみたいにじんわり幸せになれる感じになるのかなと思いつつ、これは是非映像化して欲しいと笑いながら言った。小説や漫画ではなく映画でなくてはならない。
今度は一緒に旅行しよう、どこにいこうか?なんてくだらない話に終始しながら長期休み最後の夜が終わる。最後の日にひとりじゃなくてよかったと思った。どうもありがとう。

*1:ちなみにこの話にはエンディングがもう1パターンある。『ふつうに夫をみつけて幸せに暮らしました』という王道モノであり、どっちに転んでもハッピーエンドには変わりが無い。